「個性なんて迷惑だ」と言った立川談志は筋が通っている
大事なことはすべて 立川談志に教わった第5回
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■なぜ「個性なんて迷惑だ」なのか?
すごいパラドックスですよね? 「個性を伸ばす教育からは個性は生まれない」って。
まるで「世の中カネじゃない」と言っているやつが一番儲けている今の世の中みたいですね(これはパラドックス的真実です。疑うのなら「相田みつを」の商法を見ましょう)。
あるいは、キャバクラでも「私って、ホント騙されやすいの」と言っているコが一番男を騙しています。
さあ、冒頭のこの言葉、師匠が言っていたわけではないのですが、これと同じようなことは常々言っていました。「個性なんて迷惑だ」と。
いったい、いつの時代の人の発言かと思いたくもなりますが、確かに、前座時代は「滅私奉公」です。前座が「僕にも個性があります」と言った瞬間に、その芸人生命は抹殺されてしまいます。
「それが不快なら二つ目になれ。俺はお前が二つ目になることを拒否してはいなんだから」と、例の「昇進基準」を持ち出して、理詰めで攻めてくるのが師匠なのです。
考えてみれば、「個性」って便利な言葉です。相田みつを風に言わせれば「ダメなもの」も個性なのですから。それを言い出せば、もうキリがありません。
「努力はバカに与えた夢」と言ってはばからなかった師匠でしたが、「コケの一念」で向かってくる弟子には「認めざる得ない」と言ってくれる懐の深さはありました。
確かに、たゆまぬ努力というか、コツコツ同じことを繰り返し、何度も失敗し続けながらも常に向上しようと頑張っている人間に対して、「駄目でいい」なんて言い方をしたら、その業界に未来はないでしょう。
ズバリ言うと、個性って「周囲に忍耐を要求する立ち居振る舞いの総称」なのです。
AさんとBさんがまったく同じ言動をしたとして、Aさんは嫌われ、Bさんは受け入れられるという、この微妙な差こそが個性なのです。つまり、信頼関係があって初めて成立するものなのです。